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突然思い出したこと3 - 同人ソフト制作記 1995年 電脳の中の廓 -

思いつきや懐かしい話など

突然思い出したこと3 - 同人ソフト制作記 1995年 電脳の中の廓 -

おれはあの夏の日の精神を忘れない。

たしか 1995年、夏休み。当時まだ学生。 同級生からの突然の招集により、「同人ソフト」を作ることになった。 そんな物語…。

おれ 「昔、同人ソフトを作ったことがある…」

この一言の全貌がついに明かされる。

いろいろコンピュータにまつわる懐かしい話も出てきますので、ノスタルジーに浸りたい方、どうぞ読んでください。

主な登場人物

ひろまさ(仮称) この maple4estry を書いている人。おれ
たか(仮称) ひろまさ の古くからの友達
S方さん その当時いた学校の同級生。でも年上。
ばにーぽぽまるさん 唯一の絵描き。女の子。S方さんの知り合い。
くらげ シナリオ担当。自称ディレクター。S方さんの知り合い。本ソフトの首謀者

おれとたかは、古くからの知り合い。 おれとS方さんは当時のクラスの同級生。 ということで、他は初対面どうしばかり。 このつながりが非常に薄い5人で一本の同人ソフトが作られていく....

なお、個人名については、その同人ソフトのクレジットや自称他称からとっている。

はじまり

この「同人ソフト」プロジェクト、はじまりをよく覚えていない。 学校の席が斜め前だったS方さんが、突然休み時間に「ねぇねぇ、ひろまさ君ゲームつくんない?」って いってきたのが最初だったと思う。

周りに50人もいるのになぜ、おれがチョイスされたのかはよく分からない。 おそらく、ひろまさなら、文句も言わずに楽しげにつくれるだろうと 思ったのだろう。あと、きっと好みも一緒だと思っていたに違いない。

違うから。

とりあえず、分かったのはプログラムを書けばいいんだな、、ってこと。 どんなゲームなのかも知らされていなかったが、まーせっかく選んでくれたし 若干おもしろそうだったので、やることにした。

実際のところはなんとなく どんなゲームを作るかは聞かずとも分かっていた。 斜め前のS方さんのモニターにはいつも、セーラームーンやら、なにやら写っていたし。 でもって、彼自身が何かをつくろうとしていた仕草もあった。 なんと、セーラームーン画像の上をマウスカーソルが動いていた。 あきらかに、アドベンチャーゲーム、、いやエロゲー のプロトタイプだった。 セーラームーン画像は、試験用だろう。

「セーラームーン画像の上にマウスカーソル」って書いて思ったが、 これだけだと、不思議に思わない人もいるかもしれないので、補足する。 画像の内容はともかく、いまじゃマウスが動いているのは普通の出来事だ。

当時は まだまだゲームは MS-DOS 全盛期。 機械は NEC PC9801 だった。 少しずつ DOS/V が増え始めた時期。 必然的に、ターゲットプラットフォームは、PC9801 + MS-DOS ということになる。

MS-DOSが分からない人は、Windows についている「コマンドプロンプト」を だしてみると良い。でもって、それを ALT+ENTER でフル画面にする。これが、当時の 一般的なPCの画面。マウスカーソル、ないでしょ? (戻すのはもう一度 ALT+ENTER です。念為)

画面にセーラームーン(グラフィック)を描いて、その上にマウスカーソルを 動かすというのは…、VRAMを初期化して、VRAM にビットマップを転送して、 割り込みでマウスの入力を取得して、マウスカーソルを VRAM に書いてあるグラフィックを壊 さないように、重ね合わせで表示する... ハァハァゼイゼイ... ということを、自前でプログラムする。当時としてはこうなるわけだ。 わざわざ彼はそれをやっていた。目的なしにそういうことはしないハズだ。 そして、この挙動の目的は、明らかにゲーム。エロゲー。

などと書くとすごそうだけど、後にそのプログラムを見たら Turbo Cのマウス ライブラリを呼んでいるだけだった。 まーライブラリ使うのはいいとして、 「セーラームーン」はプログラム起動前に既成の画像ローダで表示させて、 その後に 絵を消さないように TurboC のプログラムを起動!! ってやってた。 …ゲームにできないじゃん。 おそらく、この辺で行き詰っておれにいってきたんだね。 なんか、プログラムかけそーだったから。

実際はかけないんだけどさ。

さて、とどのつまりエロゲームを作ることになった。 絵を描く人はS方さんの友達(女の子らしい)、 あとシナリオを書く人もいるらしい。プログラムはおれがかくからいいとして、、

…音楽を作る人がいない。

ゲームといえば音楽である。 イースだってソーサリアンだって音楽に 雰囲気が支配されていると言っても過言ではない。 それを作る人が いないのは大問題である。 しかし…

いた。

たか登場

不幸な出会いだったのか幸運な出会いだったのか。

当時おれは、わりと学校にはちゃんと通っていた。 ただ、何故か、なんだか分からないが その日は行きたくなかった。朝起きて、地下鉄に乗ったにもかかわらず途中の駅で 降りて引き返した。 運命の出会いはここから始まる。

地下鉄が終着駅につき、ゲームセンターでもいって暇をつぶそうかな、、という 気分でホームを歩いていた。

「ひろまさ!!」。誰かに呼ばれた。

たかだった。

古くからのつきあいなのだが、ここ 3年、4年は会っていなかった。久しぶりである。 この突然の出会いで、脳内BGMが広瀬コウミになったかどうかの記憶は定かではない。

そして、ぴこん、ときた。 たかは、音楽をやっていた。 おまけに、コンピュータも扱える。 すばらしい人材…。

早速、作曲ができるか、、と聞いたところ「微妙」とのお答え。 とりあえず、そのときは、概要を伝え、連絡ちょうだいよー、と別れたのであった。

何日かたった後、たかから電話が来た。 「いろいろやってみた。作曲できるかも。」

メンバーが、そろった。

夏休み

夏休みに入った。 エロゲーは、夏コミとやらにだすらしい。 ということで、夏コミに間に合うようにがんばって作ることになる。 夏コミといえばニュースにでるくらい大きな同人誌即売会だ。 おれでも知っている。

この企画の首謀者である、くらげ氏が、本エロゲーの制作地である 「札幌」から晴海までいってブースで出展(というのか?)するらしい。 夏コミって今はビックサイトでやってんのかな。 お台場に勤務してたことあるのに、よく知らない..

売れた分は山分けするとの甘いささやき。 1本、1500円で 200本をめざすらしい。 30万で5人で割れば 6万くらい? 飛行機代とかぬいても、もらえる額は遊びにしてはいい感じである。 たかにも、そーつたえておいた。

制作地、北海道札幌市。夏は涼しいと思われがちだけど、暑いんだよ。 一般家庭にはクーラーないから...

余談だけど、こっちの人みんな札幌行くと、思ってたよりずっと都会っていう。 人口190万もいるんだが、、、やっぱり熊でもいるイメージなのだろうか。 いいんだけども。

札幌は「すすきの」で一人で飲んだくれられるしイイとこです。 SEさんが長期出張で札幌に開発行くと、帰りたく「なくなる」というのはよくある話。 嬢とのつらい別れがある。:-P 「すすきの」話は、そのうち別なところで。 ちなみに、現在これを書いているのは神奈川県川崎市だ.. クーラーあっても暑い...

そんな暑い札幌のおれの6畳の部屋で開発は始まった。なんどもいうけど、 30度あるのにクーラーがないんだよ。窓あけっぱ。汚い部屋で、もーもーとする。

関係が希薄な「ぼくら」なので、きまって集まるのは、おれとたかの2人。 夏休みだから、よくたかはうちに朝までいて朝帰って行った。 夜にたべる、宅配ピザとビンビールはうまかった。

とりあえず、シナリオも絵もまだとどいてなかったので、想像力を働かせ、 もんもんと音楽を作り始める。 せっかくなので当時の機器を紹介する、

YAMAHA EOS B500 鍵盤付きシンセサイザー。AWM+FM音源。 たか
YAMAHA QY300 音源内蔵タイプシーケンサー たか
EPSON PC-486MU EPSONのPC98互換機 (CPU 80486) ひろまさ
EPSON PC-286XX EPSONのPC98互換機 (CPU 80286) ひろまさ

上2つは、たかがうちまで持ってきてくれたものだ。 EOSなんか 20キロ近くあるのに..

このときに限らず、こんな2人が集まればまずはゲームが開始されてしまう。 よくやっていたのは、セガサターン ファイティングバイパーズ。 たかは、ハニー。おれはラクセル。 アーマー破壊だけに命をかけ、数時間やる。 …ハニーフラッシュ。 たかの、こーだくみ好きはここから始まっていたらしい。(違う)

あと忘れてはならないのが、セガサターン ラストグラデュエイターズ。 ピンボールのゲーム。 じゃーくぽーーっと、などといって しばし熱くなる。 後で書くけど、このとき既に、絵描きの女の子「ばにーぽぽまる」さん とは一度だけ会っている。 で、ねらいを定めてピンボールフリッパーをあげるときに、

ぽぽまるすぺしゃる (注:本当は"ぽぽまる"部分は女の子の名前です

と、のたまわった、たか。 どうやら、ぽぽまるさんのことが好きだったらしい。 この話、エロゲー制作記のくせに恋愛話にまで発展するところがすごい。

あとあつかったのが、COMWAR。 232C で PCを2台つなげて、紙飛行機みたいな戦闘機を操り、二人でドッグファイルを繰り広げるという 3Dゲーム。 ポリゴン全開、みたいな画面でいい感じ。 お互いのモニタを見えないように配置してプレイするんだけど、 相手キーボードの操作音が激しくなると、後ろを盗(と)られている証拠。 かちゃかちゃかちゃ、って。 かなりあせる。 おもしろかった。 おれが最初にであったネットワークゲーム(?)かも。

なんてことを書いていると、いつまでたっても進まないので、音楽制作の話に戻る。

とりあえず、PC使うよりも、QY-300のシーケンサーで作った方が、たかが操作はやいので そちらを床において作業。

最終的には、PC98 で鳴る形、FM音源 3声 + PSG 3声になるわけだ。 いい音が 3声。ファミコン音が 3音。と考えてもらえるとわかりやすい。 MIDIでいう 6トラックではなくて、同時に音をだせるのが 3 + 3。 鍵盤を 6つ押さえたらおしまいってやつ。 かなりつらい制約だけど、当時はイイ曲がいっぱいあった。

音楽はよく分からないながらも、おれも興味があったので一部参加。 適当にコード進行作ってそれにメロディーを当てはめるパターンが多かった。 コムロ進行、大循環コード、F G Am 進行、等々。 すべての知識をだしあって作曲。 それにしても、たかがいてよかった。ずんずん作業がすすむ。

おれは初めてのことだし、2人とも面白くてかなり熱中してやっていた。 故に、煮詰まることもしばしばで、 同じような曲になったり、キメだけ決めてつくりはじめたら、 いまいちだったり、苦労は絶えなかった。 技術はあがれど、このへんは いまも一緒なのかもしれない。

おれもこれを期に MIDIに興味を持ち、後に YAMAHA EOS B2000 を買うのであった。 たかも同日同店で YAMAHA EX5 を購入し、小さな楽器屋さんのシンセの在庫をなくし 店長を驚かせる。 人生何がきっかけになるか分からないものだ。

学校祭

時は夏休みより、少しだけさかのぼる。

おれと、S方さんの通う学校で学校祭があった。 S方さん曰く、このときにメンバーみんな集めよう、ということで おれもたかを呼んでみる。 S方さんは、こういうところは機転が利く。

初めての人と会うのって緊張するじゃない。 しかも、こんなエロゲーつくろーっていう、なんか異常な間柄だし。 だいたい、エロい絵を描くのが女の子ってのがすごいよな。 なんか、「くらげ」は想像つくけど、、

なんておもっていたら、「こんにちは」と。 来た。 たかと2人で顔を見上げてみる。

当然、くらげなんか気にならないので、女の子の方を見てみると、 「普通の人だ!」。  意外。

星の枠のめがねでもかけているかと思ってた。

次に、くらげの人を見てみた。 納得。 まー、悪人ではなさそうなので いいことにしよう。

同人系(ていうのか?)の女の子って、ぽぽまるさんの後、 もう1人、2人出会ったことがあるけど みんな普通のいいコなんだよね。いや、男はへんなの多いじゃない。

そのコ達にだいたいに共通しているのが、ビジュアル系が好きなこと。 ぽぽまるさんは、

スト2のバルログが好き。

といっていたし。(←バルログ君はビジュアル系か!?

あ、あとデーモン小暮閣下 も好きとおっしゃっていた。(←超ビジュアル系

閣下はおれも好きなのでいいことにする。 みんな忘れているけど、この世は閣下に征服されているんだよ。 もう戦争とかやめようね。

開発記録

舞台は戻り、おれの部屋。 こっからちょっと真面目にどうやって作ってたか 書いてみる。

まず、プログラムなんだけど、作るのはエロゲー。。 エロゲーというのは おいておいて、なんだ、昔で言うアドベンチャーゲームっていうのかな、 マウスで選択肢を選んで、フラグが立ったりたたなかったりで、条件分岐して 画面が進んでいくタイプのゲームのプログラムを書くことになる。  マウスで選ぶより「ミル ツクエ」とかぽちぽちとキーボードから入力して 「ソレハデキマセン」みたいな方が、趣があっておれは好きだが。

まだ、シナリオも絵も届いてなかったので、上記のようなことが実現できる スクリプト型の言語を作ろうと思った。 で、言語仕様を教えて シナリオ書く「くらげ」に渡しちゃう、と。 賢い、おれ。

もー1つ作らなければならないのが、ぽぽまるさんが描いた絵を表示する 画像のローダ。 画像を圧縮して、スクリプトから好きなときに呼びださ ねばならない。ディスクはFD2枚組にすることが決まっていた。

最後が、たかのつくった音楽を鳴らす、FM音源ドライバー。割り込みでBGM として鳴らなければならない。効果音がなくて助かった。

とりあえず、スクリプト言語はゴリおしでつくれそうだ。 その中で、コマンドウインドウとかマウスの制御とか、メッセージの表示を行わなければ ならないので、グラフィック系のライブラリがあった方が便利だ。 ということで 「master.lib」 を使うことにした。 当時DOSゲーム界を風靡していた、 Bio100%の人たちが つくった PC98/DOSVのライブラリだと記憶している。 整っていて、非常に便利だった。

画像圧縮については、最初自前で作ってみた。 ランレングス + 4枚あるVRAM の相互関係をみて圧縮するようなフォーマットを設計し、いろいろ圧縮してみ る。 …他のフォーマットと比較して勝ったり負けたりで、 平均して負けたときのサイズの差がひどくあり、こりゃだめだと。 master.lib で直接扱える、 Piフォーマット を使うこととした。

最後に、FM音源ドライバーだが、当初 FMP を使っていた。 非常に良くできており、当時パソコン通信で流通していた多くのファイルは FMP で作られていた。 ただしドライバの商用配布は禁止だったため、 ユーザにドライバはインストールしてもらおうと目論んでいたのだが、 「くらげ」に、なんもしなくても鳴るようにしてくれ、、とだいぶできてから いわれてしまったため、急遽商用配布可能だった、 mxdrv に変更。 これが後に、ひろまさ、たかの最大の危機を招くことになる。

さて、スクリプト言語を一生懸命作る。 テキストファイルを、言語仕様で パースして、変数の登録とかジャンプテーブルの登録とかしこしこ やって、画像ファイル呼び出しコマンドとか、BGM 変更コマンドとか を実装していく。 結構楽しい。

開発途中、S方さんが、プログラムができている様子がみたいといってきた。

絵もシナリオもないので、適当な市販ゲームの吸い出し画像に、 適当なテキストいれて自分で作ってみる。 ここで、後に伝説となる、

史上初着せるモード搭載

のエロゲーができる。

一応、スクリプト上に「複数枚の絵を重ね合わせる」ことができるような コマンドをつくっていたので、セーラー服を着ている女の子と ブラジャー単体部品の2枚の絵を用意すると、、、

セーラー服の上にブラジャーをつけることができた!。

意外なところでの好評ぶりに満足する。(←あほ

ホントは、裸の女の子を描いて、それにそれぞれの服画像をつけておいて、 1枚ずつ「脱がし」ていくためにつくったコマンド。 きっとエロゲーは、そういうもんだろうと勝手に作ったコマンド。 しかし、

結局エロシーンで使われることはなかった!!

おれが考え過ぎなのか?おれのほうがエロいのか? うおー。苦悩する。

さて、いよいよ、くらげからシナリオがきた。 まー、最初くらいはサンプル 的に、おれがスクリプト書いてあげよう、とやってみる。

…スクリプトファイルが、64KByte を超える。 まじかよ。 この htmlだってまだ 15K しかないのに。 :-)

くらげのエロ創作パワーを甘く見ていた。

ただ、おれのほうがエロくないことに少し安心する。

ターゲットとしているPC98 (Intel 80286) は、 16bitのCPUだ。アドレスバスが 16bit ということは、 直接扱えるメモリーは、64K まで。 それを超えるメモリーは、 セグメントと呼ばれる特殊なベースとなるレジスターをいじりつ つ読まなければならない仕様だ。 もちろん、32bit の CPUをつんだ PC98 はたくさんあったが、MS-DOSの制約で32bit アドレスバスを使うには エクステンドモード移行と呼ばれる 、特殊なことをしな ければならなかったし、古い機械では動かなくなる。

まーとりあえず、すべてのスクリプトファイルがメモリーに格納 されている必要は全然ないので、そこを改良。これが普通か。やれやれ。

そうこうしているうちに、スクリプトを

おれが全部書いてしまった!!(←計画大失敗

ぽぽまる

ぽぽまるさんが描いた絵ができあがった。 S方さんがFDで渡してくれた。

たかとふたりで、うちでみてみる。

えろい…。

なんつーか、女の子が描く絵の方が過激なような気がする。 気のせいか。おれらの見方が悪いんだろうか…。再び苦悩する。

シナリオライターである、くらげと打ち合わせの上、描いたんだとおもうと、 にやけたくらげの顔が思い浮かんだ。

くらげ 「うへへ、ここの場面はねぇ…。」

…殺す。 一人で勝手に盛り上がるおれ。

見る視点をそれ以外のところにしてみると、すごくうまい。 おれ、畳なんか16色でかけないぞ。 同時16色しかでなかった時代、 究極のタイリング、アンチエイリアスを行える人は尊敬の対象であった。

感心していると、たかが口を開いた。

ぽぽまるすぺしゃる だ。 (注:本当は"ぽぽまる"部分は女の子の名前です

完全に惚れていたらしい。

たかとおれ

「音源ドライバーを別なものに変えることになった」 おれが重い口を開く。 マスターアップ日の2日前。

くらげが、ユーザが個別にインストールしなければならない FMP つかっちゃだめだ、 と突然言い始め、音源ドライバーを別なものに変更しなくてはならなくなった出来事。

曲もいい感じにできあがった頃だったので精神的にもかなりきつい注文だ。 おまけに、プログラム側もだいぶ変更しなければならない。 なにより、唯一使えそうな、音源ドライバ「mxdrv」の API仕様書がなかった。 これでは鳴らすことができない。

今のようにインターネットがなかったころ、ソフトの入手は、パソコン通信と 年2回くらいでる、Vector からの CDROM本くらいだった。 なぜか、その本には mxdrv は記載されているが、目次には書いてある APIドキュメントが入っていなかった。 パソコン通信でさがして みたが、見あたらない。 わざわざ札幌から、東京のホストに つないだ。(長距離電話料金がかかる)

コンピュータ系に勤めている人なら分かる、この八方ふさがり的な 重苦しい雰囲気。 いつ終わるとも分からない苦境。

たかは、MML を mxdrv 用に変更することに、おれは mxdrv を解析 してなんとか仕様書なしで音を鳴らそうと手分けをする。 初めて2人は別の作業に取りかかった。

まずぶつかったのは、mxdrv の MML。 MML (Music Macro language) というのは、音源ドライバが理解しやすい音楽データの形式のこと。 テキスト形式で、ドはC、レはD、ミ#は、E- とかって書く。 「チューリップ」なら、「C4D4E4R4 C4D4E4R4 G4E4D4C4 D4E4D2」だ。 (音の後に長さを書く。Rは休符)

たかは、作曲したMIDIデータを元に FMP 用の MML を 完成していた。 これを mxdrv 用MML に変更するわけだが、MMLにもそれぞれのドライバ で方言のようなものがあり、書き方が少し違う。

しかし、最大の難関は音色だった。 FM音源というのは、 オペレータと呼ばれる変調機に対して、いろいろなパラメータ を与え、いろいろな音色を作ることができる。このパラメータ の与え方が決定的に違った。 いや、同じ音源である以上 パラメータは同じなのだが、 何故か同じ音色がなってくれない。はまる。

おれは、標準でついてくる mxdrv プレイヤーにサンプルデータを読ませ、 その展開したメモリーをダンプするという暴挙にでる。 どうせ、なにかしらのヘッダつけてデータそのまま格納すれば鳴るだろう、 という考え。 当たっていたが、 1Byte でもデータずれると 当然鳴らない。 鳴らないだけならいいが、コンピュータが暴走した。

MS-DOS にメモリ保護なんてない。「不正な処理を行いました」 がでない。 UNIXなら「セグメンテーション違反」か。 変なところにプログラムがジャンプしようものなら、リセット 覚悟である。 リセットかかれば、DOSといえど相当起動期間が かかり、いらいらは頂点に達する。はまる。

作業をする上で、別々なことで各人がハマっている状況というのは、 あまりよろしくない。 人の話は聞けなくなるし、話しかけられると どうしてもいやな感じになる。 コンピュータの現場ではよく起こることだけど、 こういうときこそ

「笑おう」 (注: 「笑えばいいと思うよ」 ではない

と思う。

この手のトラブルは、まずはやることを明確にするのが先決で、 この場合は、きちんとそうなっていた。たかは、パラメータを 試行錯誤すればいいし、おれは暴走すれども、1つずつ間違わ ないように、データを配置すればいい。 2人とも、がんばった。 どちらも、組み合わせは有限である。 折れずにやればいい。

元気ドリンクのみますか? こういうとき結構効きます。 迷路にはまって悶々としているときはだめ。 目標と手順が明確な作業をもくもくとやるときは、本当に元気でる。

おれは、リポD片手にがんばった。 たかは…

おなかが弱いのでリポDは辞退していた。

きっと、翌朝くる予定のぽぽまるさんのこと考えてがんばったんだとおもう。 愛は力だ。やり方は人それぞれ。

マスターアップ

翌日AM10時に、S方さんとぽぽまるさんが、我々の開発室 (ただのおれの部屋)にやってくることになっていた。 できあがりを確認するらしい。

たかはやり遂げていた。

MML を完成させ、PC-286 の内蔵スピーカ から、作曲した音楽が鳴っていた。 早朝の出来事。 またすぐくると言い残し、たかは一度帰った。

おれは、なんとしても、たかがつくった MMLをゲーム上で鳴らさなければならない。燃えた。

バイナリダンプし、印刷したデータに赤ペンでヘッダをかこみ、 調べ、リセットももろともせず、ついに…。

鳴った。

なにか絶対的な期待値があり、その期待通りに動いた瞬間。 一瞬嘘ではないかと思う瞬間。その瞬間のしびれる感覚。 コンピュータをやっていて良かったと思う。

期待から、ずっと脳内で鳴っていた幻聴ではない。 スピーカが震えて鳴っている。

つくりでもなんでもなく その鳴った瞬間に、たかが戻ってきたことを知らせるチャリのブレーキ音 も一緒に聞こえた。ドラマだね、ホント。 たぶん、たか部屋にきて、話す前に、うまくいったって わかったと思う。 同じ空気の中にいるとそういうの分かるもんだ。

まだ、10時まで時間があったので、寝ることにする。 それから、ちょうど、うとうとしかけたころで、S方さんとぽぽまるさんが来た。

S方さんは、「やーやー」みたいな感じでやってきた。 人の苦労も知らずに、って普通思うけど、疲れてたのでそのときは 思わなかった。 ただ、なんとなく人が来てくれてうれしかった。

お披露目。 ぽぽまるさんは、当然絵を知っているから 、おれらの見せ場としては、曲と動きと言うことになる。 来た2人はすべてが合体したところはみたことないのだ。

なんかさ、自分たちで作ったもの、人に見せるのって恥ずかしいよね。緊張する。

でんでんでんでん、ベースで始まる音楽でオープニングスタート。妖艶な月をバックに

パトレーバのオープニングの口上

みたいなのが、文字で下からのスクロールで現れる。 …くらげ、もうちょっとなんとか。。

ぽぽまるさんが、それをみて市販ソフトみたいといってくれた。 そーいや、見慣れちゃって分からなかったけど、いわれてみれば 曲とスクロールはあっていたし、割とイけていた。 さすが、おれら。うれしかった。

ひとしきり、来た2人にゲームしてもらう。 S方さんはあいかわらず 「やーやー」。 ぽぽまるさんは、さすがに絵を描いているだけあって すべて分かっている様子。 つーか、なんか、ここでやっていたことも 全部分かっているっぽい。 頼んでもいないのに、同じ場面の 登場人物のパレットを合わせていたり、ただの絵描きではなかった。 賢い人だった。

お祝いに、ピザなんか食べて楽しげに時は過ぎた。 エンディングのスタッフロールの絵もこのとき描いた。 スタッフロールっていいよね。 いつも思う。

ほどなく、S方さんとぽぽまるさんが帰る時間が来たので 玄関の出口通路まで、たかとお見送りする。

S方さん「じゃー、そういうことだから俺ら帰るわ」

そういうこと!?

手をつないで帰って行く2人を見て、呆然と立ちつくす男2人。

たかが言った。

ぽぽまるすぺしゃる だ。 (注:本当は"ぽぽまる"部分は女の子の名前です

人生をかけた、ギャグだった。

エピローグ

制作されたエロゲーは、くらげの手により晴海で200本売れたそうだ。 実は、おれらの手を離れてからのことはよくしらない。 S方さんが、2万円かそこらか持ってきた。なんかいろいろかかって 儲けはあんまりなかったらしい。 まぁこのへんは、そんなもんかなという感じだ。

買ってくれた人が、ただ一人、手紙をくれた。 ありがたいことだ。 なのでここで紹介する。

「登場する女の子は もっと若いほうが いいと思います。」

…ありがたい。 彼には、ぽぽまるさんお手製のポストカードを送ってあげた。

先日、先輩とわけも分からず、本屋だと思って「同人ショップ」に入ってしまった。

もはや、市販ゲームと間違うくらいの同人ソフトの数々。おそらく、開発工程も こんなんじゃなく、きちんしたスケジューリングと作業分担をして作られているのだろう。

開発もしやすくなったし、へんな制限もなくなった。 でも、なにかみていると、逆に素人が入り込む余地がなくなったように思う。なぜだろう?

期待されるものが大きくなりすぎた?。

いや、あまりに自由になりすぎて何を見せればいいか分からなくなってしまった、 というのが本当のところではないだろうか。

制限の中の自由って、なんかやる気にもなるし面白い。 見せ場も多い。

そんなこんなで、超技術をもち、現在の環境ですら制限になってしまうような人でしか 「見せ場」を作れなくなったのが、新規参加しにくくなった原因のような気がする。 コンピュータ全般でね。

でも、みんな。 またやってみない?。

「しびれる瞬間」面白いから。

自分なりの制限を自分で作るのなんか、いとも簡単だ。

さて、こうして作られたエロゲー。 おれの手元には、もうない。 後にソースコードとともに、ハードディスクがクラッシュしてしまった。

コンピュータがなければ、出会わなかったかもしれないメンバー5人。

電脳の世界に入り込み、もがき苦しみ、その後リアルの世界で楽しくピザをたべることができた。

まるで、このエロゲーのストーリーのようだ。

ゲームの名前は「電脳廓」。

この世に、200本しかないこのゲーム。持っている方がもしいたら、ご連絡を!